2018/05/09
曇り空
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『曇り空』(エピローグ) 私たち夫婦には一人娘がいた。 娘は十一歳の秋に、その短...
『曇り空』(エピローグ) 私たち夫婦には一人娘がいた。 娘は十一歳の秋に、その短い生涯を終えた。未だ名前さえない難病を患い、太陽の陽射しさえ耐えられない娘は、子供なら元気に外で遊ぶ時期のほとんどを療養施設で過ごし、そこで亡くなったのだ。過ぎ去るために生まれてきた様な一生だった。 「あの子が生きていれば今頃あなたはお爺ちゃんで、私はお婆ちゃんかもしれないわね」 妻はそう言うと、そっと涙を溢した。 もし娘が生きていれば、今頃は三十路を過ぎて、結婚もして子供もいたかもしれない。 娘の部屋は、彼女がまだこの家にいた時のままにしてある。娘は絵を描くのが大好きで、部屋の壁にはクレヨンで描いた絵が所狭しと貼ってある。幼い娘が絵の具で描いてくれた妻と私の似顔絵もある。その絵をみていると幸福だった僅かな日々を想い出し、時を忘れてしまうこともある。 娘は施設でも絵を描いていた。 晴れた日には窓から見える景色を描き、曇りの日には屋外のベンチに座り描いていた。娘は何年も、お絵描きノートに描き続け、何箱ものダンボール箱がいっぱいだ。しかし私も妻も、その絵を見ることが本当は辛いのだ。 「施設に入れて本当に良かったのか」 「人生を、施設だけで終わらせてしまった」 「可哀想なことをした」 絵を見ていると、そんな思いにかられるてしまうから。しかし私も妻も年をとり、先が長いわけではない。だから妻と相談し、今一度全ての絵を見返して、目に焼き付けておくことにしたのだ。その絵を全て持って、いつの日か娘のところへ逝きたいと思ったから。 どのノートにも、敷地から見える山の景色や花壇の花々がびっしりと描かれ、添え書きがある。 ○年○月○日 みんな夏休みだね でもあたしは夏がきらい 花壇のヒマワリを部屋の中からかきました ○年○月○日 今日は大好きなくもりぞら 山が赤くてきれいです お外のベンチで絵をかきました きもちよかった ○年○月○日 今日は雪でみんなまっしろ あたし雪が好き 雪は誰にでもやさしいから 白いお山をかきました 少しさむいです もしあたしが死んでも泣かないで… 幼い子供が自分の死を見つめ、大人を気遣っていることに心が引き裂かれた。 そのとき妻が私に声をかけたのだ。 「ねえあなた!このノートを見て」 妻が目頭を押さえながら差し出したノートを手に取ると、他のノートよりも厚く重く感じられた。そのノートに描かれていたのは娘の最後の夏の景色だった。そのノートの絵は明らかに他のものとは違い、やがて頁をめくる手が打ち震えた。 ○年○月○日 ベンチでお山をかいていたら、しらない男の子があたしに話かけました だから絵は途中まで じゃまされて少し腹が立ったけど、すごく弱そうな子で、なんかかわいい ○年○月○日 男の子とシーソーをしました 山にもつれていってくれた 楽しかった あの子、あたしのこと好きみたい あたしも、あの子が好き 花火をみる約束をしました 何十頁にもわたり、その少年と遊具で遊ぶ光景や、山路を散策している情景が描かれていて、さらに草や花びら、そして木の皮や小枝などが糊付けされていた。 そして最終頁には花火大会の光景が描かれ、添え書きがあった。 「花火ってすごくきれい」 そして赤い折り紙で作られた小袋に 「あの子にプレゼント」と鉛筆で書かれ、糊付けされていた。その折り目を開くと、花の種らしきものが入っていた。 そのノートを閉じると涙が溢れた。 「娘は過ぎ去るために生まれたのではない。幼いあの子は恋をし、人生を謳歌したのだ。娘が愛した少年に会いたい」 そう思った。 私たちは、娘が世話になった療養施設を訪ねることにした。しかし二十年以上も前のことなので当時の職員は誰もいなく、三十歳位の男性職員が応対してくれた。 彼に娘の最後の夏のノートを見せ、そこに描かれている少年のことが知りたい旨を説明した。すると彼は、穴が空くほどノートを見つめ、打ち震えていた。そして花火の絵に貼ってある赤い小袋を開き、種を手にのせて指でなでると、震える声で言った。 「その少年は、この私です」 彼は出逢いから花火大会の日までの娘の様子を、目に浮かぶほど丁寧に話してくれた。 彼の話を聞き、娘は幸福だったと、病に倒れたのではない、生き終えたのだと思った。 私たちは彼に礼を言い、その最後の夏のノートを彼に渡し、施設を後にした。 それから一月ほど後の日曜日の早朝に、妻が不思議なことを言った。 「あなた、あの子の声がきこえたの。 「お母さん、お花が咲きました」って」 すると彼から電話が入ったのだ。 「こちらに来て下さい!咲いたのです」 私たちが施設につくと、時節外れのこの時期に、一輪の白い朝顔が花壇に咲いていた。 そして後日、その朝顔は、翌朝までしぼまなかったと彼が教えてくれた。 いかならん 色に咲くかと あくる夜を まつのとぼその 朝顔の花 …せい 滝沢馬琴『兎園小説』第四集 文宝堂(二代目蜀山人)の採録による 「夢の朝顔」より おわり(続きを読む)
日本語が下記のように文字化けしました。
サブライム3を使っていた所、突然日本語が下記のように文字化けしました。 サブライム上では文字化けしていません。 ブラウザ、DWで見るとします。 バグで文字コードが変わるなどある...(続きを読む)
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